TSUKINAMI project

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「どーゆーこと?」

「妹!?」

 魁君と結姫先生が驚いて声を上げる。オレも思わず椅子から身を乗り出した。シュンさんだけは、落ち着いた表情で琉央さんを見ている。

「やっぱり、そうなのね」

 含満先生はそう言って、小さく息を吐いた。

「一也君が気を失った案件で遭遇した蜘蛛人間について、その翌日に委員長から調べてほしいと頼まれた。その調査の開始とほぼ同時に、彼女が私の元にやってきた」

「何故?」

 琉央さんが眉間にシワを寄せる。含満先生はそんな琉央さんを見てから、小さくため息をついた。

「私達研究員は表向き製薬会社の社員として勤務している。彼女はその製薬会社に入社を希望していた。理由は、肉親の死の真相を知るため。

 その肉親は、製薬会社へ出勤している途中で不慮の事故に遭い死んだ。けれど、遺体は損傷が激しいとして見ることも叶わず、葬儀も製薬会社が責任を持って執り行い、住んでいると教えられていた部屋も、片付けのために訪ねた時には既にもぬけの空だった。

 それに、彼女が言うには「あいつはそんな事故で死ぬような人間じゃない」と」

「どういうこと?」魁君が首を傾げる。

「AIを身体にまとわりつけて歩いているあの男が、不慮の事故に遭うはずはないんだそうよ」

「あはは、それ完全に琉央くん一致」

 茶化す魁君の声に、含満先生は少し微笑んで続けた。

「彼は何か大きな秘密を暴いて殺されたのではないか。そう彼女は疑っているそうよ。何故なら、彼は知的好奇心に勝てず無鉄砲に持てる能力全てを注いでしまう性格だから」

「わかってんじゃん〜」

「それで、どうして先生のところに」

 愉快そうに笑う魁君の声に、焦ったような琉央さんの声が重なった。

「肉親が勤めていた製薬会社の入社試験に落とされたから。どれだけ優秀でも、あなたの身内を入社させることはできない。落とされるのは当たり前ね。

 本人曰く、会社から必要とされている能力はすべて備えている。親とも疎遠で、転勤にも耐えられるし、住み込みで働く自信もある。国と繋がっている会社であることも承知し、面接でも好感触だった。なのに落とされた。自分より成績の悪い人間が受かっていることも把握している。これは何かおかしい。

 なおさら肉親の死の真相を疑わざるを得なくなった彼女は、過去の入社した人間のリストをハッキングにより入手した。そこから退職年数を計算して、辿り着いたのが私だったそうよ」

「琉央さん兄弟がいたんだ」

「弟と妹がいる。双子の」

「え、双子??」

 オレが驚いて声を上げると、魁君が「そうそう〜」と言いながら頬杖をついた。

「意外だよねぇ〜。ってか妹ちゃんに破られるとか、うちのウェブの防衛超スカスカなんじゃないの? ウケる〜」

「それで?」とシュンさんが含満先生に尋ねる。

「先生はどうしたんです?」

「もちろん、琉央君のことは何も言ってないわよ。本人も濁していたし、頭の切れる子のようだったから、私が言わなくても察しはついているでしょう。でもね、面白そうだったから一つ試練を与えたわ」

「何を」と驚く琉央さんの声を遮るように、含満先生が「アルバイトよ。アルバイト」と楽しそうに言った。

「一也君が倒れた時の事案について、第一部隊が後処理をして立ち去った後、残骸を確認した。残念ながら、残りかすにヒントは無かったけれど、その時に真那教徒の集団と出くわしたわ」

 真那教。高校のクラスの大半も真那教徒だ。真那教を信仰していないオレの方が珍しいくらい。

「やはりそうか」シュンさんが呟く。

「僕と一也が見た男が所持していたあの丸いエンブレムは、間違いなく真那教のものだ」

 丸いエンブレム。死体を食べた男が懐から取り出した赤い輪っかのことだ。つまり、あいつは真那教徒で、そいつがいた現場に真那教徒が偵察に来た、ということらしい。

「つまり、真那教は丹の存在を知ってるってこと?」

 魁君の言葉に、含満先生は首を横に振る。

「組織全体で事に及んでいるのか。その男、またはその男の周辺の組織が関与しているのかは謎のまま。

 蜘蛛人間になったその男と、私が出会した集団の顔をAI識別で確認したけれど、全員教団組織の上層部ではなかった。そして、真那教徒であること以外に彼らに共通点は見当たらなかった。交友関係も謎。ネット上でたまたま知り合ったのか。闇バイトか。はたまたトカゲの尻尾なのか。

 とはいえ、この国の7割が真那教徒なのも事実。偶然もありうるわ」

 含満先生は「だからね」と付け加えた。

「彼らの共通点をアルバイトに探ってもらうことにしたのよ」

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