鴉
「うっわぁ〜」
俺は思わず漏れた声を抑えることなく顔をしかめた。
会場の入り口には長蛇の列。並んでいる人間全員、ザ・ヲタクという名前を与えても遜色のない風体だ。
みんなくたびれたTシャツに、小学生男子が着るようなパーカーや年季の入ったチェックシャツを羽織っている。
足元は擦り減ったスニーカーか、似たような運動靴。
装備されたリュックやカバンには本体を覆い隠すほど大量のキーホルダーや缶バッジが取り付けられている。もちろん、全部SR-maidenのグッズだ。
そいつらを、ハクくん命名の “ニックネームスタッフ” 達が厳しく指導し整列させている様子に、俺は辟易とした態度を抑えきれなかった。
「なんでみんな総じてオシャレの概念どっかいっちゃってんのかな……」
俺はひとりごちつつ建物の裏に回る。ああいうのは苦手だ。
ちょっとハクくんも似た匂いがするけど、ハクくんの場合はもうちょっと清潔感があるし、ヲタク的な方向性が違うから良しとする。うんうん、そうに違いない!
謎の言い訳を考えながらこじんまりとした楽屋入口へ向かう。
セキュリティカードを使って重たい防音仕様の金属製ドアを開けた。
力を込めてドアを閉め切ると、空気が抜けるような音がして、外の喧騒から一転して異様な静けさに包まれる。廊下の白さと薄暗さも相まって妙に不気味だ。
頭の中に叩き込んだ地図によれば、このまま真っ直ぐ進んだ先が1階受付エントランス、手前の角を曲がった先が楽屋になっている。
横の通路に入って階段を上がった2階に待合室と会場。会場のステージ袖と繋がるように、一階の楽屋と階段で繋がった小さめの第二楽屋がある。
俺は首元から音叉を取り出して、腕に叩いて柄を噛んで目をつむる。
ツンっ、と頭に音が響く。
音が地面を這って、その音を頼りに俺の意識も波紋のように広がる感覚がする。
しばらくしても、返事は返ってこない。静かだ。丹はいない。
報告書によれば、脅迫状と丹の欠片は回収済み。研究室に輸送されたと書かれていた。
輸送先研究室の研究棟番号が書いていなかったあたり悪意を感じるけど、そこは後で睦のおっちゃんに聞くとしよう。
音叉を口から離して素早く懐にしまう。無線のスイッチを入れた。
「こちら5番、館内1階から異常なし。共鳴もなし。これからニックネームスタッフに接近しまーす、どぞー」
『こちら4番、了解。僕らは先に会場に入る。以上』
「あーい」
俺は間延びした声で返事をして無線を切る。
返事はきちんと返せ、とルールに厳しいハクくんに怒られそうだけど、こういう場所では電話してる風が一番いいんだって。
頭の中で言い訳をしながら角を曲がろうとした。その時————