鴉
魁君の含んだような言い方も気にはなった。けれど。そもそも、全部。なんだかよく分からなくて、想像がつかない。
それじゃあ、とオレは続ける。
「“共鳴”って何?」
魁君は困ったように笑って「そうだなぁ」と呟いた。
「琉央くん風に概要を説明すると……、“共鳴” によって自分を思い出しながら丹と “同調” して、そのまま丹に強い衝撃を与えて破壊すると、丹の活動を “抑止” 、つまり “無害化” することができる」
オレが眉間にシワを寄せると、魁君があはは、と笑って肩を叩いた。
「こればっかりは自転車に乗るみたいなもんだから……感覚で覚えるしかないよね〜。そうだねぇ〜……。簡単に言えば、丹は黄泉の国から来ちゃったお友達。このお友達とお話しする力が “同調” って言われる力。引き寄せられてることに気付いてコントロールする器だね。で、そのお友達はいつも仲間を探してて、俺たち人間を丹にしようとして来るわけ。でも嫌じゃん? それ死んじゃうって事だからさ!」
「うん」
「だから、器のある、お話し出来る俺たちが、みんなのこと丹にするのやめてよ! って叱り付けて、丹には文字通り黄泉の国にお帰りいただくわけ。お帰りいただく方法はシンプル! 深く “同調” しながら、振動・衝撃を与えること! あ、この “深く同調しながら” が重要ね。深く同調決まってないと全然 “無害化” できないから〜。泣き出すまで説得して最後にビンタくらわして二度と来んな! って脅す感じ〜」
オレは首を傾げつつ、うん、と相槌を打つ。「それでね」と魁君が続ける。
「もう一つ重要なのは、丹とお話しすればする程、丹と “同調” すればするほど、俺たちも丹になっていっちゃう、丹電子障害になっていっちゃうってこと! しつこい人説得するにはそれなりに会話が必要じゃん? それとおんなじように、強力で巨大な丹と深く “同調” するのは時間かかるわけ。で、人間に戻るためには、一緒に “同調” しながらそこに居て “お前人間だよ” って思い出させてくれる人が必要になってくるんだよ。ヒートアップしたら仲裁してくれる人ね。なんて言うのかなぁ〜手綱つけといてもらうかんじが近いかな? この手綱が “共鳴” 」
「それ」と魁君がオレの手元にあった音叉を指差した。
「音叉は “同調” の器を広げる効果もあるんだけど、“共鳴” を行う為に必要な道具なんだよ」
「じゃあ、さっきオレは、これを使って丹と “同調” して……琉央さんとは “共鳴” してたって事?」
「そうそう!!」
「……つまり、琉央さんが俺を人間に戻してくれたってこと?」
「そうそうそうそう〜〜〜〜! さすが一也! そう言う事!」
魁君は大きく頷きながら「音叉が何でそういう効果があるのかは、まだ解明されてないんだけどね」とも呟いた。
オレは寒気がして膝を体に引き寄せた。つまり、琉央さんがいなかったら、オレは死んでいたということだ。と、そこまで考えて、自分に呆れてため息をつく。あんなに死にたがってたくせに、いざ死を目の前にするとこの様だ。
ぼさっとしていたら、魁君がオレの顔を覗き込んで「それでね一也!!」と大きな声で言った。
「っ、はい」オレは驚いて顔を上げる。
「そもそも! 丹とお話しする時に、たくさんの丹にプレゼンするのが得意か、一つの大物の丹を説得するのが得意かが分かれるし。かつ、そもそも丹を説得するのが得意な人と、お前人間だよって冷静に見てるのが得意な人がいるんだけど。今回はそれのどっちが得意なのか、正確に確かめる為の訓練でもあった訳だよ!」
「な、るほど……?」
「で、今、琉央くんがそれをゆきちゃんに報告しに行ってるとこ」
身を乗り出す魁君に少し仰け反りながら、オレは「そうなんだ」と息を吐いた。
「それで……結局オレは、なにが得意だったの?」
オレが尋ねると、魁君はニコニコしながら「ふっふっふ」と得意げに笑う。
「正式には答えが出てないけど」
「……」
「琉央くんが言うには、一也は大物を説得する方が得意で。それでもって “お前人間だよ” っていう方が得意っぽいらしいんだよ」
オレは俯いて「なるほど」と呟く。
「その “なるほど” は理解してない “なるほど” だね」
魁君が笑う。
「どうして能力の得意分野を見定めないといけないかっていうとね。“共鳴” は、誰とでも最大の力を発揮できるわけじゃないんだよ。だからさっき言った得意分野を見て、最大限力を発揮できる相棒 を見つける必要がある」
「相棒 ?」
「そう。で、それって生まれ持った遺伝子で決まるんだよね。つまり、努力しても、体質に変化があっても。共鳴の質、得意分野は変わらない」
「へぇ」
オレは言って俯く。
遺伝子。途方もない。自分でどう仕様もないところで、オレの運命は決まっていたらしい。自分のことなのに自分のことじゃないような気がする。実感が湧かない。不思議な気分だ。
「それでね〜……」
魁君が困ったように笑った。
「一也の相棒は、なんと、残念ながら “瀧源シュン” なんだよねぇ〜」
オレは思わず黙り込む。なんだか、複雑な気分で、どう表現したらいいか分からなかったからだ。
「……嫌だ?」魁君が首を傾げる。
「………ずっと瀧源さんと組まないといけないってこと?」
「まぁ、場合によっては相棒意外とも共鳴するし。シュンちゃんと同じ体質の人が後から現れれば、その人と組むことになるかもしれないけど。第一 “同調” “共鳴” できる人間が限りなく少ないから、その可能性は少ないかもね〜」
オレがまた黙り込むと、魁君が俺の顔を覗き込みながら優しい困った顔をした。
「……やっぱ無理?」
「分かんない」
「……怖い?」
「……怖い、けど、あの人が怖いというより、共鳴がよく分からなくて、怖い。なんというか、瀧源さんが相棒なのは、別に……」
「うん?」
「…………この気持ちをうまく表現できない、けど……」
オレは言葉に詰まって考え込む。確かに、この状況を見たら、傍 から見たら、あの人のことを嫌いになるのが普通なんだと思う。けれど。そんなことより、もっと重大なことがある気がして、でも、それが何かうまく輪郭を掴めない。
「なんというか、」
オレは考えをまとめるように、独り言のように思いついた言葉を口からこぼした。すると、魁君が静かに「うん?」と相槌を打ってくれた。
「綺麗で、残酷な人形みたいだと思ったんだけど」
「うん」
「叱られた犬みたいで、」
「ふふ、うん」
「どっちが本当なんだろうって、もしかして、どっちも本当じゃないのかも、って」
「不思議に思った?」
「……興味深くて、気になって」