鴉
'46年 新入委員
整理番号:N-00243
区分:特甲機密
作成日:'46年8月10日
表題の件につき、下記の通り報告する。
I. 診察者
国家防衛隊翼下 国家緊急対策委員会
隊長 卯ノ花結姫(主任研究員)
II. 診断日時
'46年8月8日
III. 対象者 全1名
1. 国家防衛隊翼下 国家緊急対策委員会
予備委員 暁星一也
IV. 対象共鳴者 全3名
1. 特定共鳴者
国家防衛隊翼下 国家緊急対策委員会
委員長(国家防衛隊 少佐 兼務)
2. 同
副委員長(研究棟第二部隊 隊長 兼務)
3. 同
主任 和泉魁
V. 診察結果
■ 暁星一也
満18歳 '46年5月17日入会
遺伝子検査結果
甲-白:0.00 | 甲-紫:0.23
【 単独 】
共鳴 深度:---
同調 速度:502 m/s
深度:0.14/1.00
侵食:0.00-0.00(Level 0)
解離 強度:1.00/1.00 強
【 共鳴者:瀧源シュン(特定共鳴者)】
共鳴 深度:0.32/1.00
同調 速度:812 m/s
深度:0.82/1.00
侵食:0.02-0.10(Level 1)
解離 強度:0.90/1.00 強
【 共鳴者:傳琉央 】
共鳴 深度:0.10/1.00
同調 速度:793 m/s
深度:0.10/1.00
侵食:0.00-0.00(Level 0)
解離 強度:1.00/1.00 最
【 共鳴者:和泉魁 】
共鳴 深度:0.46/1.00
同調 速度:362 m/s
深度:0.73/1.00
侵食:0.13-0.21(Level 2)
解離 強度:0.42/1.00 中
VI. 共鳴者参考数値
1. 特定共鳴者(測定日:'46年4月7日)
■ 瀧源シュン
満25歳
遺伝子検査結果
甲-白:0.65 | 甲-紫:0.00
【 単独 】
共鳴 深度:---
同調 速度:1432 m/s
深度:1.15/1.00
侵食:0.32-0.44(Level 3)危
解離 強度:0.24/1.00 弱
【 共鳴者:傳琉央(旧暫定特定共鳴者)】
共鳴 深度:0.68/1.00
同調 速度:2049 m/s
深度:0.87/1.00
侵食:0.00-0.00(Level 0)
解離 強度:0.72/1.00 高
【 共鳴者:和泉魁 】
共鳴 深度:0.22/1.00
同調 速度:622 m/s
深度:3.33/1.00 ※危険水準超
侵食:0.59-0.67(Level 5)危
解離 強度:0.08/1.00 危
2. 他委員参考数値
【 傳 - 和泉 】共鳴時
(測定日:'46年4月7日)
共鳴 深度:1.20/1.00(測定不可)
同調 速度:1803 m/s
深度:2.42/1.00 ※危険水準超
侵食:0.00-0.00(Level 0)
解離 強度:1.00/1.00 最
【 東雲 - 瀧源 】共鳴時参考数値
(測定日:'43年12月10日)
共鳴 深度:0.89/1.00
同調 速度:2004 m/s
深度:1.00/1.00
侵食:0.00-0.02(Level 0)
解離 強度:0.90/1.00 強
VII. 所感
上層部の人間がこれを読んでいるように思えないが。念の為、報告したぞ、という意思表示のためにここに所感を記載する。文句があるなら卯ノ花結姫まで意見願う。
今回は、今年度入会した【暁星一也 1名】について同調・共鳴能力に関する診察を行った。
■ 共鳴遺伝子型
前委員長、東雲零樹に酷似した遺伝子型である。従って、彼が殉職するまで特定共鳴者(以下、特鳴)であった瀧源シュン(以下、瀧源)の特鳴として研究棟第二部隊が定めたのも正しい判断と思われる。
下記、過去一度も私の報告書を読んだことのない上官皆様のために概要を懇切丁寧に書いて差し上げよう。
* 遺伝子型「甲」
※遺伝子型「甲」は、同調・共鳴能力がある人間が必ず所持する遺伝子要素である。
※丹に対する同調アプローチに影響を与える遺伝子型であり、「白」「紫」が存在し、同調・共鳴能力のある人間はどちらか一方を所持している。両方の遺伝子を持つと相殺され、遺伝子型として発現しない。この遺伝子を持つ者(「白」「紫」どちらかを持つ者)同士のみ「共鳴」を行うことが可能となる。共鳴するにあたり所持する色は問われないが、違う色同士で共鳴すると最大限に力を発揮できるようだ。特鳴に指定される者同士では、基本的にお互いに違う遺伝子型を持つことが必須事項として挙げられる。
暁星一也(以下、暁星)には「紫」の遺伝子の発現を確認した。「紫」は同調速度が基準値を大きく下回る(基準平均値:500 m/s)ことが多いが、暁星の場合、502 m/sとそこまで悪い数字ではなかった。入会から3ヶ月にしてここまでの速度があるのは極めて優秀だと言えるだろう。(努力の結果だな。えらいぞ一也君)
速度が基準値以下の場合「丹」との距離が遠い(500m以上離れた)場合に同調が不安定となることが多いが、彼の場合それも然程気にならないだろう。
* 遺伝子型「乙」
※遺伝子型「乙」は遺伝子型は丹との同調・共鳴深度に強い影響を与えるものであるが、能力を決定付けるものではない。
※「赤」「黒」が存在し、両方の遺伝子を持つと相殺されるようだ。(遺伝子型「甲」と同様である)
※特鳴に指定される者同士では、基本的にお互いに違う遺伝子型を持つことが必須事項として挙げられる。(同上)
※この遺伝子を持たずして同調・共鳴能力がある人間も理論上存在する。(委員をスカウトしている輩から情報が降りてこないのでこの理論が正しいのか確かめる術はない。情報の開示を要求する)
暁星には「黒」の遺伝子の発現を確認した。「黒」の遺伝子を持つ者の特徴の例に漏れず、同調深度は0.14ptと低い。同調速度は502 m/sと基準値を満たしているが、この深度では単独任務に向いているとは言いにくい。
ただし、 丹侵食率(これは丹に侵食される危険度を示したものだが)は0.00である。共鳴を行わず単独でこの数字は異例と言えるだろう。さらに、解離強度は1.00(つまり100%)と最高強度を記録している。あくまで研究室内で再現できる環境下での結果だが、同調した丹にほぼ飲み込まれることなく、安定した環境下では解離(離脱)を失敗する事がない。
丹侵食率の低さ、および解離強度も「黒」の遺伝子の特徴ではあるが、数字が特出しているのは間違いない。稀有な能力が彼には備わっていると言えるだろう。
■ 特定共鳴者との共鳴
※まず、共鳴を行う際に重要な項目の一つが「信頼」である。診断では計り知れないこの心的項目について、これを読む上官の皆々様に理解があることを切に祈る。
暁星と瀧源の共鳴深度は0.32ptであり、特鳴としては低い数値である。これは暁星の能力不足というよりも瀧源との「信頼」やお互いの「理解」が不足している結果だと考える。参考として「乙-赤」の遺伝子を持つ和泉魁を暁星の共鳴者とした時の数値は0.46ptであり、特鳴でなく、3ヶ月前に会ったばかりの相手としては然程悪い数字ではない。
(傳は同じ共鳴に向かない「乙-黒」の遺伝子を持つので、相性がそもそもいいとは言えないだろう)
ただし、共鳴深度が低いにも関わらず、同調侵食・解離強度の数値は著しく良い。瀧源の単独同調時の数値が非常に危険な値であることを考えると、暁星の能力の高さに驚くばかりである。
■ 他
今後、特鳴との共鳴訓練を強化する事で、共鳴深度を高める事は十分に可能だと考える。また特鳴者である瀧源と、より多くの時間をかけてお互いに今以上の信頼関係を築いていく事が、暁星にとって目下一番の課題だろう。
共鳴深度が上がれば、瀧源と前特鳴者東雲零樹の共鳴に匹敵する、あるいは凌駕する能力の高さを発揮できるはずである。
以上