TSUKINAMI project

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「っう……」

 右肩の方から小さなうめき声が聞こえて、思考が脳みそに戻ってくる。

 横目で見ると、シュンさんが小さく伸びをして、ついでにあくびをしていた。目が覚めたみたいだ。

「大丈夫ですか?」

 オレが尋ねると、シュンさんは「うぅん」とか言いながら更にもう一回大きく伸びをした。

 そして間を置いて、小さく驚いたように息を吸った。

「っあれ……、零じゅ……————

 シュンさんが驚いた顔でこちらを見た。口が開きっぱなしの焦った顔と目があった。

「シュンさん?」

 声を掛けた。

 途端に「あ」とシュンさんが気まずい顔になる。

 慌てたシュンさんの膝から書類が落ちて、廊下にバラバラと散らばった。

「あ……はは、一也。……えっと、大丈夫。ごめんね」

「何やってんですか、あんた」

「えへへへ、恥ずかしいところ、見られちゃったな」

 シュンさんがベンチから降りて、そそくさと散らばった書類を片し始める。オレもそれを手伝おうとベンチを降りる。

 書類にはよく分からない難しい文章が並んでいた。その上、一瞬『機密』みたいな字が見えたような気がした。こんなに撒き散らかして大丈夫なのか?

 手元に束ねた書類を軽く整えてシュンさんに手渡す。シュンさんがへらへらしながらそれを受け取った。

 まだ焦った顔してる。きっと、オレと零樹さんを間違えたから。

「シュンさん」と、オレは思わず呟いた。

「……なぁに?」

「ごめんなさい。オレ、琉央さんから全部聞きました。零樹さんのこと」

「……」

 シュンさんは無表情だった。

「だから、気にしないでください」

 オレが言うと、シュンさんは少し泣きそうな顔で、はぁ、とため息を吐いた。

「…………ごめんね。ちょっと。嫌な夢を見て。寝ぼけてただけだから。忘れてほしいな」

 シュンさんは書類を膝の上で束ねて、傍に置いてあったファイルに突っ込んだ。

「僕は、とても失礼な奴だね……。許してほしい。でも……言い訳をするとね。君が、あんまりにも零樹に……前の相棒に、似ているから。思い出すんだ。君を見てると。だからと言って、寝ぼけ(まなこ)で人違いをするなんて。失礼極まりない話なんだけれど……————

「別にっ……そんな事ないです」

———— あはは、君はほんとうに優しいんだね」

 まるで捨て台詞を吐くみたいなシュンさんに、オレは少しむっとした。でもその気持ちが分かる気がして、複雑な心持ちだった。

 きっと、そのせいだ。

「別に……オレのこと、零樹さんの代わりにしてくれていいです」

 オレはつい、そのせいで、そうやってシュンさんを困らせるような言い方をしたんだと思う。

 シュンさんの顔は、怖くて見れなかった。

 なのに、言葉を止めることができなくて、オレは下を向いたまま、言い訳みたいに小さく言葉を続けた。

「……オレ、頑張るから。あなたの背中を守れるくらい、任務を一人前に遂行できるくらい、あんたの前から死んでいなくならないように、強くなるから。その時は……代わりじゃなくて、オレを、本当の相棒にして……ほしい、です」

 言って、少し間があった。けれどシュンさんは何も言わなかったし、微動だにもしなかった。

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