鴉
「負けず嫌いなんすね」
考えた末、オレは多分かなり的外れなことを言ったんだと思う。
「それ良く言われる〜」と返されたし「新人さんにしては当たってるんじゃない?」なんてちょっと上から目線で褒められてしまった。
ダメだ。本当に言いたいことが、全然伝わらない。
オレが考えあぐねていると、ふと向かい側に座るもう一人のお姉さんが目に入った。
その人は、占ってあげている人とは対照的で、質素な雰囲気の黒髪をボブにした女の人だった。
オレ達のことをじっと見てとても不安そうな顔をしている。この人の方が常連なのかも。そう直感的に思う。
目の前にいるお姉さんの事を、本人よりも心配している様子で、そわそわして。オレの動作に一喜一憂しているみたいだから。
あぁ、なるほど。この人が、髪の長いお姉さんの事を心配してここに連れてきたのか。
占いに頼るのも分かるけど。思ってることは自分で言った方がいいんじゃないかな。
「あなたの事は、誰かが見てると思う」
オレは目の前のお姉さんに向かって呟いた。
「見てる人を、あなたがよく見てないのか、気が付いてないのか。知らないっすけど」
オレはそうとも言って、向かい側に座っているボブのお姉さんの方を指差した。
「その人にも相談してみたら? オレなんかより。一緒にここに来たその人に」
「私?」
素っ頓狂な声でボブのお姉さんも自分を指差した。自分が引き合いに出されるなんて思ってなかった顔だ。
でも。この人なら、本当のことを言っても大丈夫そう。そう思った。過不足なく言葉を受け取ってくれるような気がしたから。
オレは努めて優しい声で「そう」と返事をした。
「ずっと心配そうな顔してるから。このお姉さんが無理してるの、お姉さんはずっと分かってたんじゃないんすか? でも、何も言わないで側にいるでしょ。ちゃんと心配してるって言ってあげた方がいいよ。そうじゃないとこの人、気付かないと思うんで。灯台下暗しって言うし。それだけ “前しか見えてない” ってことかもしれないっすけど」
オレの言葉に、ボブのお姉さんが泣きそうな顔で胸元にあった手をぎゅっと握りしめる。本当に心配してたんだな。何かあったのかも。それだからきっと、さっきオレが思ったこともこの人は全部気が付いてるし、もっと根本的なことにも気が付いてそう。
ふと視線を前に戻す。目の前に座るお姉さんが、口を開けたまま不思議そうな顔でこちらを見ていた。
よく分からない顔してる。多分、オレが占いを出来なくて、ボブのお姉さんに結果を “丸投げした” と思ってる。そんな顔だ。
嫌だな。これだから、赤の他人と話すのは苦手なんだ。
オレはため息を吐く。
「すんません。しらけました」
そうとも言うと、目の前のお姉さんじゃなく、ボブのお姉さんが焦ったように「違うの!」と両手を横に振った。
「敢えて……言わないでくれてるのかな?」
そうとも言って、伺うような目つきでこちらを見る。やっぱり、この人は分かってるんだな。
あぁ、なんて言えばいいか。なんとなく思い付いたかも。
「そうっすね」オレは言って、目の前のお姉さんに向き直る。
お姉さんはまだピンと来てない、ちょっとイラついた顔をしていた。
けれど、オレが目を合わせると、唇を噛んで少し焦った顔になった。
「詳しくは、一緒に来たお姉さんに聞いたらいいと思いますけど……。さっきも言ったけど、そんなに無理に自己主張しなくったって、あなたは誰かが見てくれてる。だからまずは今、見逃してるものをよく見たら?」
「見逃してる?」
「そう。そこにいるお姉さん。あなた自身よりもあなたのこと心配してるのに。すでにそれに気付いてないじゃん」