TSUKINAMI project

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「だから琉央、ひいては僕たちに内密なんだね」

 僕が笑いながら呟くと、結姫が呆れたように「まったく」と呟いた。

「笑い事ではありません。……が、話を先に進めます。つまり私が言いたいことは、丹を一箇所に集める原理は理論上解明されており、それを行うには同調能力のある人間が必要であるらしい、という事です。詳細は開示されていません。第六研究室で、どの程度まで実験が進行しているのか、来月の会議で公式に発表されるようですので、それを待つのも一つかとは思いますが……」

 結姫は言って、腕を組んだ。

「そもそも警衛委員に協力を仰がない時点で何かおかしい。同調能力者なしで実質的な実験なんて出来るわけがありません。馬鹿げた話、システムの大枠だけ作って後から委員長達に無駄な生命のリスクを背負わせる、という方針を採るなら話は別ですが」

「…………ほかに、実験体がいたりしてな」

 ぽつりと呟いた睦先生に、結姫が「まさか」と一言返したけれど、先生は変わらず難しい顔をして腕を組んだ。

「どちらにせよ、せっかく集めて育て上げたお前達をお上はみすみす殺させやしないだろう。あ〜、第六の件は本気にしちゃいなかったんだがな。だんだん現実味が増してきたぞ」

「というと?」

 僕が尋ねると、先生はうむ、と唸って眉間に皺を寄せた。

「楽観的に見れば全て偶然の出来事だ。カイカイさんの奇妙な出現経路、丹の同時多発的な発生、亜種の存在、勝手に自らの意思で動き出す腕、無害化に関連した不可解な “聲” の事象。そこに降って湧いたような “杜撰 (ずさん)な” 第六研究室の新しい研究方針。

 だが、今まで “丹” という物質を研究してきた私の所感だが……、 “丹” は感染経路がはっきりしていな以外は、自然科学に基づく摂理に則った挙動をとることが確認されている。ウィルスや寄生虫、放射線、そういった類と同じだ。今回のような不可解な事象は初めてだ。すなわち、怪しいんだ。全てが繋がっているんじゃないかと疑いたくなる。誰かさん (・・・・・)の所為なんじゃないかと」

「研究室内に、“丹” を使って何かを企んでいる輩がいると?」

「それならまだいいさ」

 僕の問いに先生は真剣な顔でそう答えた後「これは難しい事案だなぁ」と頭をぽりぽりと掻いた。

「本当に怖いのは “丹の存在を知る新たな第三者がいる” 可能性だ」

「 “敵対組織の存在” ということですか?」

「 “丹” という存在を知っている機関は世界でここしかないはず (・・)だ。悲観的にこの事態を考えるなら、同調能力を使いこなす警衛委員以外の内通者、ないしは外部の人間、最悪両方が存在し、あろうことかその “敵対組織” は私たちより高度な “丹” に関する知識を持ち、散らばった丹を一瞬にして収集する理論を解明している。

 第六研究室が、研究室同士の研究成果争いにやる気を出したのか。または、第六研究室ないしは指示を出した防衛士官が粗末な謀反をを起こそうとしているのか。……または上層部が既に謀反の情報を掴んでおり、フェイクとして情報をあえて漏らすことで反逆し得る人物を炙り出そうとしているのか。などなど……。まぁ、どれにせよ、何をしでかそうとしてるのかは分からんがな」

「探りを入れたいですね」

 僕は呟いた。

「そうだなぁ……」と睦先生も頷く。「まぁ、私がその反逆者かもしれないがな」という言葉も付け加えて。

「もう先生やめてください!」結姫がすかさず言って眉間に皺を寄せる。

「はっはっはっ、冗談だろうよ〜」

「その冗談はゾッとしません」

 結姫の剣幕に先生は相変わらず、はっはっと笑う。

「だが、丹殲滅・人類救済に命を懸けてきた事こそ私のアイデンティティだ。それに反することは今更したくない。それに何より、委員長や委員 (能力者)をこんなことで死なせたくない。委員長なんか、せっかくこ〜んな泣き虫ひよこの時から可愛がって————

———— 先生」僕は少しだけ語気を強めて呆れた声を出した。

「すまんすまん、ついな」

 先生は頬を掻きながら今度はちょっとだけ申し訳なさそうな声で謝る。

 そして、気を取り直したように「まずはスパイが必要か」と呟いた。

「人の懐に入るのを厭わず、裏を探るのが得意だが、研究室から信頼の厚い有能な人物と言えば?」

 先生の問いに、僕と琉央の声が重なった。

「魁ですね」「魁だ」

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