鴉
その様子を見ていた魁君は、やっぱりきっと面倒くさかったんだと思う。
うーんと唸った後、じゃあ〜、と呟いた。そして、「一也はここに置いてくから」と言い放った。
「は?」
オレの反抗をよそに魁君は「俺部屋にも片付け物あるし戻る〜」とそそくさと奥に引っ込んでいく。
「一也〜、あとはよろしく〜」
「は?いやちょ、何勝手な事……———— 」
オレが逃げようと一歩後ろに下がると、斜め後ろからシュンさんの手が伸びてきて、腕をぎゅっと掴まれた。
「痛っ!」
「一也〜」
「ちょっと! やめろよ! 痛いしキモい! あんた本当意味わかんないんだけど!」
「む〜〜」
「む〜〜、じゃないし! 離せ馬鹿力! いつもの無駄な母親スキルどこ行ったんだよ! オレは部屋に戻る!」
「かずやぁ〜」
「……っあああああったく!!!」
本当にムカつく。酔っ払いなんて大っ嫌いだ。
しかもシュンさんなんか、力が無駄に強くて剥がせないし、変にしょぼくれた声出すし、オレにどうしろって言うんだよ。
「はぁ…いい加減にしろよ……」
もうどうでも良くなった。
オレはさっきまで魁君が座っていた所に乱暴に腰を下ろす。
「もう、分かったよ馬鹿! で?何、どう相手にすんの?」
「僕は馬鹿じゃない〜」
「はぁ………やっぱめんっどっくさっ!」
「めんどくさくない〜」
いやこの状況はめんどくさい以外の何物でもねぇよ! と心中叫ぶ。酒臭いし最悪。
オレがそっぽを向いて肘をつくと、シュンさんはやっとオレの腕を離して静かになった。
ちらっと見ると、シュンさんはテーブルに置いてあったグラスに白ワインを注いでいた。
いやまだ飲むのかよ。
「やめときなよ」
オレがグラスをひったくると、シュンさんが「えぇ…まだ残ってるのにぃ」とか言い出した。
「今注いでたじゃん! オレいま見たし! ってかボトルにあるのは残しとけばいいじゃんか!」
ほら、と近くにあったウーロン茶のペットボトルと空きグラスを押し付ける。するとシュンさんは、もごもご文句を言いながらそれを注いで飲み始める。
「味がない〜」
「あっそ」
オレは適当に返事を返してiMoniを鞄から取り出す。
「オレ、イベント走るから。シュンさん適当に話しててよ。返事はしてあげる」
「走る?」
「アプリゲームのイベント進めるの」
「あぁ〜」
シュンさんは相槌を打って、またウーロン茶に口をつける。
しばらく、シュンさんはなぜか黙ったままぼーっとウーロン茶を飲んでいた。せっかくオレが返事してあげるって言ったのに。
オレは内心イラっとしながら、でもイベントガチャで思ったよりいいカードが出たから、ずっとそこでスマホをいじっていた。
そしてオレがイベントのボスを2回倒した頃。ようやくシュンさんが口を開いた。
「一也はさぁ」
「何すか」
「魁と琉央には色んなこと話すのに、僕には話してくれないね」
「はぁ?」
オレは顔を上げてシュンさんを見た。
「それはあんたも一緒じゃん」
「うえぇ? そぉ?」
「そうだよ馬鹿!」
オレが怒って睨むと、シュンさんはぽやっとした顔でオレを見つめ返した。その顔が尚更ムカついて、オレは思わず「ってか」と呟いた。
「あんたの方がよっぽどっ……」
言いかけて、すぐに口を結んだ。
シュンさんの様子を伺うと、遠くを見つめて何か考えているようだった。
怒ったかと思ったけどそうでもなさそうだし、かといって悲しいとか寂しいとか、そういうんでもなさそうだった。
意味わかんない。