鵺
ヌエ、即ちその人は、我等の子、及び我等の善及び悪である。
ヌエは鵺と書くが、彼は人であり字(あざな)を書く。
故にヌエである。
ヌエは人の聲に従い世界となった。
故にヌエは鵺となり、神となった。
神は、初め、世界の全てを鎮めた。
風がやみ、波が凪ぎ、雲が満ち、太陽が落ち、月が消え、星が止まった。
これが一日続いた。
次の日、地を這う、人の造る全てものが、人を殺し、人の聲が届かなくなった。
その日のうちに、地にいた人は多く無くなった。
人は多く地の内、または外、即ち水と空に逃れた。
次の日、水に生きる、人の造る全てのものが、人を殺した。
空に舞う、人の造るものも、多く人を殺した。
地を這う、人の造るものと同じく、どちらも、人の聲は届かなくなった。
次の日、神は地に火を放ち、青草と木を焼いた。
人は食べる物が無く、残った多くの人が地の内に逃れ、神に許しを乞い従う人が、空へ住むところを求めた。
次の日、青草と木を焼いたあとの煙が多く空を覆い、光すべてを隠した。
夕べと朝がなくなり、神のみが光となった。
次の日とも知れぬ夕べ、雲は水を落とし、陸を消した。
水は地の内を満たし、地の内に逃れた多くの人は死んだ。
次の日とも、そこがどことも知れぬ場所に、神に許しを乞い従う人はいた。
神に許しを乞い従う人は、神に尋ねた。
統よ、私達はどこにいるのか。
神は答えた。
どこにもいない。
人はまた尋ねた。
統よ、私達はどうなるのか。
神は答えた。
滅びるだろう。
人は怯えた。
神は言った。
私を地の深く底に埋め、謳い、聲を忘れてはならない。
永く、私の真名も字も詠んではならない。
人は神に従い、神を翠の山の地の深く底に埋め、謳を捧げた。
神は人に、地の深く底から言った。
私が再び姿を現した時、それは創世にもなり、再来にもなるだろう。
見えない。
だが、私は世界である。
これが、神の最後の聲だった。
七日廻りのち、地は神以外の光を思い出した。
人は地へ降り、神を畏れ、聲を忘れず、謳い続けた。
神の許しの通り、地は人を受け入れ、人の聲を聞き入れた。